訪問歯科衛生士の仕事を知ろう ~Vol.5 患者さんの状態に応じた口腔ケアのポイント~

歯科訪問診療

2023/06/27

Vol.5 患者さんの状態に応じた口腔ケアのポイント

歯科衛生士16年目、歯科訪問診療7年目のSATOです。歯科訪問診療の現場では、外来診療と異なる部分がたくさんあります。これから訪問診療に取り組まれる歯科衛生士さんや、新たに訪問診療の扉を叩こうと考えている歯科衛生士のみなさまに、実際の訪問診療の業務はどのようなものなのかをお伝えいたします。

 

全身状態に応じたポイント

 

◆口腔清掃の自立度

口腔ケアを行う際に、その方の口腔清掃の自立度がどの程度なのかというのはとても大切なポイントになります。口腔清掃がご自分で行える患者さんに対しては、直接ブラッシング指導を行います。中には「自分ではここが磨けないから磨いて欲しい」とおっしゃる患者さんもいらっしゃいます。四肢の動きが良好でない場合は無理なく行ってもらいます。手動の歯ブラシを扱いにくい方には、電動歯ブラシを使って清掃を行ってもらうこともあります。

 

◆うがいの可否の決め方について

うがいができるかできないかは大きな分かれ目となるので、できる患者さんには積極的にうがいをおすすめしています。しかし、むせなどが起こりやすい場合は、反対に誤嚥性肺炎のリスクを高めてしまうため、うがいを頑張っていただくのがいいのか、そうでないかは慎重に判断するようにしています。うがいを行う瞬間でなく、口に水を含む瞬間にむせることが多くなった方は、拭掃に切り替えています。

 

◆意識レベルによる特徴

基本的には、どなたに対してもブラッシングが口腔清掃のメインとなります。しかし、意識レベルの低い方は、痰を上手く吐き出せないため、乾燥淡の除去をメインに行うことが多いです。乾燥淡の除去はその方によって20分以上の時間がかかることもあります。特に梅雨は痰がらみのある方が多くなるため、毎年注意して除去しています。

 

◆キーパーソンについて

ご自宅でケアを行う際は、キーパーソンとの接し方もポイントになると思います。キーパーソンとは、ご家族や兄弟など、患者本人以外で治療や介護における意思決定の中心人物です。キーパーソンといえでもご家族によって様々な事情があり、口腔ケアのポイントを指導しても実行が難しいケースもあります。基本的なケアの方法だけお伝えして、その後はできる範囲で口腔清掃を行ってもらうようにしています。口腔ケアのある1週間に1度の清掃となってしまう方もいれば、全く歯科衛生士のケアが必要ないくらいにきれいにされている方など、ご事情によって本当に様々です。また、ヘルパーさんがメインで口腔清掃を行っている場合はヘルパーさんと連携を取ることもあります。

 

口腔の状態に応じたポイント

 

◆無歯顎の方

無歯顎の方はスポンジブラシで清掃し、唾液腺のマッサージなどをメインに行います。歯がある方より時間がゆっくり取れるので、お歌を歌っていただくことも多いです。

 

◆残存歯あり

外来診療と違い、スケーラーよりもブラッシングが清掃のメインとなります。超音波式のスケーリングを行う時は、歯科医師と歯科助手が伺って行っています。

 

◆義歯について

歯科訪問診療でお伺いする患者さんは、義歯を使用している方が多いです。清掃は義歯用歯ブラシで行います。また、外来診療の患者さんよりも体調の変化が起こりやすいため、歯槽提が痩せて義歯が合わなくなる患者さんをよく拝見します。このような場合、無理に使用をすすめるとご自分で外してしまい、紛失につながる可能性もあるため、歯科医師に調整をお願いしてから、再度使用をすすめます。

 

◆開口できない方への対応

歯科訪問診療で口腔ケアを行う際、開口が難しい方というのはかなりの割合でいらっしゃいます。開口をうながす時は、なぜ開口できないかの理由によって、対応が異なります。こちらの意図が分からない、または拒否として現れる場合は、臼後三角を押したり、咬筋のあたりを押したりして開口を促します。毎回うまくいくわけではありませんが、これで開口していただけます。気を付けなくてはならないのが、こちらの意図は伝わっているのに、口を開けるという動作がどのようなものか、筋肉の動きとして思い出せないでいる患者さんです。このような方に無理に開口を促してしまうと、不要な拒否に繋がってしまいます。このような方には、前歯部に指を軽く差し入れて「この指を歯で辿って口を開いてみてください」と声かけします。開口するという言い方だと複雑に感じられても、歯で指を辿る動作なら単純に感じられるのか、開口していただけることがあります。どのような理由で開口できないのか、なるべく見極めて対応を分けるようにしています。

 

外来診療と同じように、訪問歯科においても、患者さんの状態はそれぞれで異なります。外来診療と違うところは、全身状態や意識レベルによって対応を大きく変える点かもしれません。特に身体が上手く動かない方、意思の疎通が難しい方への対応では、知識や経験、そして患者さんを思いやる想像力などが大切になります。相手の気持ちを完璧に想像することはできませんが、だからこそ「こう思っていらっしゃったのか!」と気づいた時は嬉しいものです。

 

※本記事の内容はあくまで一例です。

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